現在、伝統的なビジネススクールへのMBA出願者数が減少傾向にある
その代わりにグローバル企業の幹部候補生がこぞって美術系大学院へ足を運び、「美意識」を鍛えているという
つまり先進的なグローバル企業では分析的なスキルではなく、コンセプチュアルな概念スキルを身に付けようとしているのだ
では、そのように考える具体的理由はなんなのだろうか?
どうも、サラリーマンブロガーのmasa(@masansatabasa07)です
今回は、世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?という本を読んだので、内容と書評をしていきたいと思います
Contents
著者について、本の概要
著者の山口周さんは大学で哲学や美術史を学び、社会人としては電通やボストンコンサルティンググループなどに務めた経歴をもっています
「経営におけるアートとサイエンスのリバランス」「組織の潜在的創造性の開発」「資本主義とビジネスの未来」等を主な研究領域とする。コーンフェリーのシニアパートナーを務めながら、研究、経営大学院での教職、著作、各種ワークショップの実施、パブリックスピーキングなどに携わる。学部と大学院で哲学・美術史を学んだという特殊な経歴を活かし「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動を行っている。
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E5%91%A8
そんな彼が現在のグローバル企業が「美意識」を学ぶ傾向にあり、その理由について解説している本になります
本書の目次
1章:論理的・理性的な情報スキルの限界
2章:巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
3章:システムの変化が早すぎる世界
4章:脳科学と美意識
5章:受験エリートと美意識
6章:美のモノサシ
7章:どう「美意識」を鍛えるか?
では内容についてみていきましょう!
現代に論理的思考は時代遅れ
これまでの日本企業は論理的な経営をして成功を納めてきました
しかし、現代はVUCAという先行き不透明な時代であり、論理的な方法だけでは生き残ることができないといいます
これがMBAが減少し、美術系大学院へ集まる理由だというのです
では、なぜ著者はそう思うのか?理由は、大きく分けて3つあります
理由1.論理的情報スキルの限界
理由2.自己実現的消費の時代
理由3.システムの変化にルールが追いつかない
それぞれの理由について解説していきます
理由1.論理的情報スキルの限界
論理的情報スキルの限界の要因はさらに2つに別けることができます
1つ目は、コモディティ化という問題です
一見、正しい正解を行うことが経営するにはうまくいくように見えるのですが、実はここに落とし穴があります
正しい答えを追い求めるということは、全員が同じ正解を探し出すこととなり、結果的にコモディティ化してしまうというのです
確かに今の世の中に溢れている製品をみてみれば、皆同じような製品ばかりです
自動車、家電製品、デジタル製品など…
これではレッドオーシャンとなり、差別化できない結果としてコストでの対決になってしまうのです
2つ目は、世の中がVUCAという複雑な時代となり、論理的に考えるには難しくなっているということです
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとして使われています。
引用:https://bizhint.jp/keyword/40037
論理的思考は問題の要因を具体化・抽象化していく作業であり、要因が増えれば増えるほど答えに近づくことが困難になっていきます
その結果、意思決定に時間がかかり過ぎてしまい、ビジネスの停滞が起きるのです
これら2つをまとめると、論理的経営はレッドオーシャンの中で生きることとなり、スピードとコスト重視の苦しい経営とならざるをえません
理由2.自己実現的消費の時代
2つ目の理由は、世界が豊になるとともに人々が消費する基準が変わりつつあるということです
平成元年などの日本企業がぶいぶい言わせていた時代では、モノが溢れていたわけではなく、現代で生活費需品となっているものの原型がこの時代には出始めたころだと思います(スマホの原型=携帯とか)
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引用:https://togetter.com/li/1259348
生きていく上で必要なもの。これはマズローの5段階欲求でいう低次の欲求ということになります(生理的欲求、安全の欲求)

引用:https://www.jimpei.net/entry/maslow
つまり、30年前は人々が必要としているものを論理的に導き出すことが大切だったということになります
しかし、今の時代は生活必需品など低価格で簡単に手に入れることができ、低次の欲求は簡単に満たすことができるのです
そうなると、結果的に高次の欲求を満たそうとし、承認欲求や自己実現の欲求を求めるのです
洋服で言えば、寒さを防ぐためのコートから、着ている自分のセンスを表現するためのコートに変わるということ
つまり、論理的ではなく企業のセンスが問われる時代になっているということです
理由3.システムの変化にルールが追いつかない
3つ目は、システムの変化にルールがついていけていないということです
変化が激しい時代ではルールが作られる前に様々な抜け道を使って利益を上げることが可能なのです
しかし、そのように法律の範囲内であれば何をしてもOK!という実定法主義であれば、後に罰せられるという可能性があるのです
例えば少し前にライブドアやDeNAなどが問題となりましたが、当時は法律や規則があったわけではなく、倫理性が問われたことでの問題となったのです
2017年に起きたYoutuberのVALU問題も同じです
デジタル社会に伴い様々な商品を生み出すことができるようになった今、ルールの範囲内であればよいという論理的手法では通用しない時代ということ
結果的には個人の倫理感に依存するので、個人の生き方としての美意識が問われるということになりますね
これらの理由から論理的な方法は時代遅れであり、これからは異なるアプローチが必要ということです
サイエンス・クラフト・アートのバランスが大切
では論理的思考はこれからの時代に必要ないのか?ということですが、そうではありません
大切なのは論理と直感のバランスなのです
著者は主に3つのバランスが大切ということを主張しています
1.サイエンス:分析や評価を通じて現実的な裏付けをする
2.クラフト:知識や経験を元に実行する
3.アート:直感的にワクワクするビジョンを生み出す
そう、この感覚こそが現代の日本企業が陥っている原因なのです
論理的に説明できるサイエンス、クラフトに偏った意思決定を行うあまり、アートの力が弱まり、結果的に無難で心を動かす商品を作れなくなっているのです
このバランスが上手だと思うのがAppleですね
iPhoneなんかは、しっかり論理的に人が欲する機能がついており、尚且つ見た目自体がスタイリッシュで欲しいと思わせられます
自己実現的消費が主になった現代でウケている理由はまさにこれでしょう
逆に日本製品のスマホはなんだかみな同じで、持ちたい!!と思わせるものってありませんよね?(論理的にも使いにくくて微妙な気もするが・・・)
これこそがサイエンス、クラフト、アートのバランスの重要性なのです
今の日本企業はサイエンス、クラフトに寄っているため、意識的にアートに寄りになるくらいがちょうどいいのです
では、そのアートは感覚的なものであり、いいアートを生み出す人物になるにはどうすればいいのか?ということを次の章で説明しますね
美意識を高めるには?
ここまで美意識の重要性についてお話してきましたが、ではどうすれば美意識を鍛えることができるのか?ということが気になるでしょう
本書では4つの方法が提示されています
1.絵画(VTS)
2.哲学
3.文学
4.詩
それぞれについてみていきましょう
1.絵画(VTS)で観察眼を鍛えよ
絵画からは観察眼を鍛え、物事をあるがままに見るというトレーニングをすることができます
そんなの簡単でしょ!と思うかもしれませんが、大人になるとほとんどの人が過去のパターン認識に囚われてしまっているのです
例えば以下の2つに共通するものはなんでしょう?
・蟹(カニ)
・蝸牛(カタツムリ)
どうですか?
水辺に生息?触覚がある?・・・違います!
答えはどちらも虫という漢字が入っているということです
このように人はたくさん物事を経験して知識があるからこそ、あるがままにみれなくなってしまっているのですね
絵画を見て「何が起きているのか、これから何が起きるのか」という観察をすることで物事をあるがままに捉える観察眼を鍛えられるのです
まずはステレオタイプなものの見方をなくすことが、イノベーションを起こすために必要な要素であり、そのトレーニングが絵画によってできるのです
2.哲学で懐疑力を持つ
哲学から学べることは大きく分けると3つあります
1.コンテンツ:内容
2.プロセス:思考の過程
3.モード:社会への向き合い方、姿勢
このうちのプロセスとモードには学ぶべきことがあるというのが筆者の主張です
というのも、哲学者は常識とされている支配的思考に対して、懐疑的な目を向けるプロセスがあり、その思考を粘り強く深掘りするというモードがあるのです
現代のシステムに疑いの目を向けなければ、美意識などなく型にハマったものしか生まれません
この懐疑的な思考も、イノベーションを起こすために必要な要素なのです
3.文学で美意識のモノサシを探す
文学からは自分の美意識を評価するモノサシを見つけるいいきっかけとなるのです
文学とは哲学と同じ問いを物語形式で表現したものなのです
そのため正解はありません。自分なりの正解を導き出すために思考することこそが大切ということになります
本書ではドフトエフスキーの『罪と罰』が例として出されています
様々な悪事を行っている人物が登場し、そのどれについて悪いと思い、どれが仕方ないことだと思うか?
・家族の生活のために人を殺すのはよいか?
・家族の生活のために娼婦をするのはよいか?
これは個人としての生き方の美意識が反映されます
ハーバードビジネススクールであった、電車問題も同じかもしれませんね
これら文学を読み自分と対話することで、自分なりの美意識を見つけることができます
4.詩で人を動かす力を手に入れる
詩とはレトリックが命であり、この力を活用することで言葉以上のイメージを伝えることができるのです
システムを変えるにはいうまでもなく個人では不可能であり、周りを巻き込んでいくリーダーシップが必要です
そして、リーダーシップの根元はコミュニケーションとなります
つまり、人の心を動かすレトリックを詩から学ぶことができ、リーダーとしてのトレーニングになるのです
まとめ:アートこそ今後の生きる戦略
現代において論理的アプローチだけでは成功できない
これからはアート要素が重要になってくる
それらを鍛えるには、絵画、哲学、文学、詩に触れるということ
まさか、論理的思考ではなく感覚を大切に!なんて言われるとは思いもしませんでしたが、たしかにAppleなんかをみているとあれはアートとサイエンスのバランスが非常に良いなと納得してしまいました
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